第5回がん緩和ケアに関する国際会議のご案内
新しい時代を迎えようとしているがん緩和ケア
「がん緩和ケアのオリンピック」とも称されるSapporo Conference for Palliative and Supportive Care in Cancer(SCPSC)」は、2026年7月に第5回目の開催を迎える運びとなりました。
SCPSCは、古代ギリシャの哲学者プラトンが築いたアカデミアの理念を重んじ、科学と倫理、実践と思想が交差する知の場を志向してきました。その端緒となった、理不尽な死を遂げた恩師ソクラテスの生涯は、現代科学のあり方に対しても重要な問いを投げかけているように思われます。SCPSCはそれらの精神を受け継ぎ、基礎研究と社会科学の融合を追求しています。
近年、私は各所で、がん緩和ケアの研究と実践が大きな転換点を迎えているとお話ししてきました。こうした変化には二つの潮流が見られます。一つは、がん、神経難病、慢性心不全、さらにはCOVID-19感染症などに特化した緩和ケアを専門的に提供し、同時に独自の科学的探究を進める施設や研究者の登場です。他方では、国や地域の実情、あるいは施設の理念に基づき、特定の疾患に限定せず、すべての病に寄り添う非特異的な緩和ケアを展開する医療者や施設の存在があります。とりわけこの後者は、世界の保健医療政策においても極めて重要な意味を持つと考えています。
第5回SCPSCのプログラムは、こうした状況を踏まえ、palliative oncologyおよびpsycho-(social)-oncologyにおける革新的な内容を編成いたしました。そしてまさに期待通り、それぞれの分野で世界を牽引する研究者を招聘することができました。すなわち、私たちはすでに「転換点」を超え、新たながん緩和ケアの研究と実践の時代に入ったことを実感しています。
今回の会議では、以下の4つの主要シンポジウムを軸としています。
1. オピオイドに関する課題
企画:Dr. Russell Portenoy および Dr. David Hui
2. 免疫療法を含む化学療法などの緩和的がん治療
企画:Dr. Areej El-Jawahri および Dr. Shunichi Nakagawa
3. サイコオンコロジー(psycho-oncology)
企画:Dr. Friedrich Stiefel、Dr. Sarah Dauchy、Dr. Camilla Zimmermann
4. 安楽死問題
企画:Dr. Luc Deliens および Dr. David Currow
いずれも現代的で革新的な構成となっています。
また、2023年12月22日発行のニュースレター IRS–SCPSC News Letter でお知らせした通り、一般演題は口演セッションとポスターセッションの二部構成とし、専門家を交えた教育的な運営を計画しています。多くの皆様からのご応募を心よりお待ちしております。
さらに、教育講演として Dr. Karen Steinhauser による「スピリチュアリティ、スピリチュアル・ケアの比較文化学」を、特別講演として Dr. Herwig Czech による「The Lancet Commission on Medicine, Nazism, and the Holocaust: historical evidence, implications for today, teaching for tomorrow」を予定しています。このテーマは、緩和ケアおよび現代医療のみならず、混迷する現代社会に対しても重要な示唆をもたらすと信じております。
SCPSCは、がん緩和ケアの分野において、世界の第一線で活躍するリーダーたちが、競争ではなく対話と共創を通じて課題を議論する、類まれな国際会議です。そのため“がん緩和ケアのオリンピック”という愛称が生まれました。
palliative oncology、psycho-(social)-oncology に関心をお持ちの方々はもとより、がんに限らず幅広い疾患に携わる多くの皆様のご参加を、心よりお待ち申し上げております。
石谷 邦彦
The International Research Society of the SCPSC 理事長
医療法人東札幌病院 理事長
2025年8月15日